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「お兄様、うまくいった?」
「ああ、大丈夫。みんな、よく眠っていたから」
「・・・・・・お疲れさま、兄くん・・・・・・」
リビングに入ってきた兄を、年長の妹二人がねぎらった。
12月24日、いや、日付は既に25日に変わって、一時間以上が経っている。
雛子や亞里亞たち年少の妹たちは、とっくに夢の世界で遊んでいた。
明日の朝になったら、さぞかし大喜びすることだろう。
サンタクロースが、今年もちゃんと、枕元にプレゼントを置いてくれたのだから。
「ふぁ〜あ。パーティーもサンタクロース役も、無事に終わったなあ」
大任を果たして気が抜けたか、大あくびする兄。
そんな兄を楽しそうに眺めながら、咲耶がグラスを運んできた。
「お兄様、カクテルを用意してあるのよ。これ飲んで、今夜はもう休みましょ」
「お、いいね」
勧められるがままにグラスに口をつける兄は、咲耶と千影の意味あり気な視線に、全く気づいていない・・・・・・。
それから、しばらくして。
兄は、自室のベッドで寝息をたてていた。
「・・・・・・?」
眠りの国の中で、ドアが開く音を聞いた気がする。
物憂げに半目を開いてみると、微かな明かりが見えた。
明るい場所では寝つきの悪い兄は、就寝時には完全に消灯する習慣だ。
今夜も、確かに真っ暗闇の中で目を閉じた筈なのだが。
・・・と、兄の寝ぼけまなこに、人影が映った。
よく見えないが、赤い帽子に赤い服、白い髭をはやした人物だ。
すぐそばに立って、優しい瞳で見下ろしている。
「・・・・・・サンタ・・・・・・?」
ボーッとしたまま、兄が、独り言のように呟く。
目が醒めきっていない為か。
まぶたを何とかこじ開けようとする兄は、頭の中に霞みがかかったような、妙な気分を覚えていた。
不思議な感覚・・・・・・懐かしい感覚・・・・・・。
人影が語りかけてくる。
「ほっほっほっ。メリー・クリスマス!」
「サンタ、さん?」
自分の声が、奇妙に遠くから聞こえる。
まるで、別の自分が喋っているような、何とも言い難い気分だ。
しかも、その“別の自分”ときたら・・・・・・。
「うわ・・・・・・うわぁ〜っ、サンタさんだ、サンタさんだ・・・・・・」
実に素直に、喜んでいるではないか。
「そうだよ、ほっほっほっ。」
「わぁい、サンタさん、僕にプレゼントを持って来てくれたんだね」
夢の続きのようにフラフラと、兄はベッドの上に起き上がる。
−兄の心は今、青年のそれではなかった。
小学校、いや、幼稚園時代かも知れない。
何故だか、そんな幼い日に、戻ってしまっているのだ。
サンタクロースの存在を疑いもしなかった、遠いあの日の心に−
そんな幼い自分が、遠くの方で勝手に喋り続けている。
「僕ねえ、僕、いい子にしていたよ。だから、飛行機のオモチャちょーだい」
「うふふ、お兄様ったら・・・・・・あ、いけない」
「え? お兄様?」
幼い咲耶の顔が、兄の目の前に浮かんだ。
その咲耶の顔が、みるみる現在の咲耶の顔に変わっていき−。
枕元に立つサンタクロースの顔に重なった。
「あれ・・・・・・咲耶ちゃん??」
「え、ええっと・・・・・・」
12月24日が終わってから、既に三時間近く。
完全に正気に戻った兄は、先ほどナイトキャップを楽しんでいたリビングに、咲耶・千影と共に戻っていた。
「・・・・・・まったく、咲耶ちゃんは・・・・・・『お兄様ったら』も無いもんだよ・・・・・・」
「ごめ〜ん。だって、お兄様、ホントにかわいかったんですもの。だからつい、ね」
千影に手を合わせてみせた咲耶は、今だにサンタのコスチューム着用中である。
それを兄は、しげしげと眺めている。
数時間前のクリスマス・パーティーで、兄が着てみせた服なのだ。
市販のパーティーグッズである。元より、本物と見誤る訳はない。
ヒゲだって、一目で付けヒゲと分かる代物だ。
それなのに、ついさっきは本物のサンタにしか見えなかった・・・・・・何故?
「千影ちゃんも、人のこと言えないんじゃないの?」
サンタ咲耶から目線を移して、兄が言う。
「・・・・・・」
「千影ちゃんだよね。あのカクテルに何か混ぜたの」
「・・・・・・まあ・・・・・・そんな、ところかな・・・・・・」
兄の精神を一時的に幼児退行させ、同時に、判断能力をも低下させる。
千影の細工に原因を求めるのが、最も理にかなった推察というものだ。
「そうよ、千影ちゃんの薬が思ったより効かなかったから、簡単にバレちゃったんじゃない」
「そういう問題じゃないだろ」
兄にたしなめられて、舌を出してみせる咲耶。
いつもの事だが、あんまり表情を変えない千影。
二人とも、どこまで反省しているものやら・・・・・・。
苦笑を浮かべるしかない兄である。
「いったい何で、こんな事を思いついたのか、聞かせてくれるんだろう?」
「・・・・・・言い訳に・・・・・・なってしまうのだが・・・・・・構わないかい?」
「あ、私が話すわ。言い出しっぺだから。あのね・・・・・・、お兄様は幾つの時まで、サンタクロースを信じてた?」
「は?」
突然の質問に面食らう兄。
はて、幾つ頃までだったろう。
すっかり色あせた記憶を、兄は辿っていく。
「小学・・・・・・2年か3年ぐらい・・・・・・までだったんじゃないかなあ。よく覚えてないけど」
「それで・・・・・・その後、お兄様はずーっと、私たちの夢を守ってくれていたのよね」
「夢?」
「ええ。サンタさんの夢。さっき、雛子ちゃんたちにしてあげたみたいに」
微笑んでみせる咲耶。
その瞳には、恋慕と共に、感謝の色があった。
「・・・・・・だから・・・・・・たまには兄くんにも・・・・・・夢を楽しんでもらおうって・・・・・・咲耶ちゃんがそう言い出したと・・・・・・いうわけさ・・・・・・」
「そう、だったんだ。な、何だか、くすぐったいなあ」
「薬のことは謝るわ。ごめんなさい。でも、私たち、お兄様に色々な事をしてもらってばかりで・・・・・・クリスマスぐらい、お兄様だって子供に戻る権利はあると思ったのよ」
「・・・・・・すまなかった・・・・・・兄くん」
「うん、もうわかった」
笑顔で応じる兄の頬が、心もち紅潮している。
「久しぶりに、楽しい夢を見させてもらったよ。ありがとう、咲耶ちゃん、千影ちゃん」
「お兄様v」
「お礼なんか言われると・・・・・・申し訳ないよ・・・・・・兄くん・・・・・・v」
言いながら千影はイスを立って窓の傍らに歩み、兄に背を向けて、暗闇に沈む庭を眺めた。
照れた顔を、兄に見せたくなかったのかも知れない。
「まあ、でも今年だけでいいよ。僕には、いつでも夢を運んでくれるサンタクロースが、ちゃんと居るからね・・・・・・12人も」
「そうよね。うふふv」
立ち上がり、モデルのようにクルッと回転してみせる咲耶。
サンタの衣装が、鮮やかに舞う。
咲耶と兄の明るい笑い声を耳にしながら、微笑みを浮かべる千影。
漆黒の夜を見つめる彼女の瞳には、咲耶とは別の・・・・・・もう一人のサンタクロースが映っていた。
満足げにソリに乗り込み、今しも天空に駆け去ってゆくサンタクロースの姿が。
(おわり)
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■:HN:黒鮫建武隊
■:タイトル:「サンタが来た聖夜」
■:コメント:お読み頂き、ありがとうございました。黒鮫建武隊です。
書いていて思ったのですが、妹たちのうち、サンタクロースの存在を信じていそうなのは、誰あたりまでしょう。
雛子ちゃんは間違いないとして、四葉ちゃん辺りは、心底から信じているかも知れませんね(^^)
案外、可憐ちゃんも?
冬部門にもSSで参加しておりますので、ご覧頂けると幸いです。
それでは。
■:HP:
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■皆さんからのコメント■
・無邪気な企みがコミカルで面白いですね。(^^
可愛いサンタ衣装が目に浮かぶようですv
・千影の怪しい薬…千影らしくデンジャラスです…。
咲耶とのコンビというのに、なぜか納得。
幼児退行した兄は、読んでてちょっと照れました♪
・咲耶の『お兄様はずーっと、私たちの夢を守ってくれていたのよね』という部分が印象的でした。
年長の妹という魅力が出ていると思います。
・兄がサンタさんを見た時の描写がすごかったです!
まるで自分もサンタを見ているような気分になりました♪
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