「おはようございます。お兄ちゃま!」
その声を耳にするや否や、蒲団の中に頭からもぐり込む兄。
寒い季節である。誰しも蒲団が恋しい。
「あー、やっぱり、まだ寝てるー!」
「・・・・・・う〜・・・・・・お願い、花穂ちゃん・・・・・・あと1分・・・・・・いや、あと2分だけ・・・・・・いや、あと5分・・・・・・」
「増えてるよ、お兄ちゃま」
蒲団にすっぽりとくるまり、巨大ミノムシの如き状態となった兄に、花穂がツッコミを入れる。
と、ミノムシが顔だけ出した。
眠たげな目で、パジャマ姿の花穂をボーッと眺める。
「・・・・・・あれ・・・・・・ねえ、花穂ちゃん。今日ってさあ、休みじゃなかったっけ?」
「うん、そうだよ」
「えーーー! なんだよ、もぉ・・・・・・」
口を尖らせながら、兄の顔はモゾモゾと蒲団の中に戻っていく。
蒲団の中から寝ぼけた声で
「じゃあ、まだ起きなくてもいいでしょ?」
「うん。花穂、起こしに来たんじゃないもん」
「・・・・・・ふーん・・・・・・じゃあ、何?」
「えへへ、お・兄・ちゃ・まv」
言うが早いか、花穂が宙を跳んだ。
・・・・・・ドサッ!
「グェッッ!!」
ベッドの上で、カエルが潰されたような声があがる。
兄の潜り込んでいる蒲団の上に、花穂が全身を投げ出したのだ。
花穂のおなかの真下には蒲団、その真下には兄の顔・・・・・・という位置関係。
いくら花穂が身軽とは言え、これでは兄はたまらない。
「もごごむごももご・・・・・・!」
「えっへっへー、お兄ちゃま、寝ていたいんでしょ? だから花穂、起こしてあげないんだもーん」
「むぐごもむむもぐごごも・・・・・・!!」
下敷きにされた蒲団が、ジタバタともがく。
花穂がひょいと身を浮かすと、蒲団が撥ね上がって、真っ赤な顔が飛び出した。
「ぶわっ! ぶはー、はぁっ、はぁっ、・・・・・・あー、窒息するかと思った」
荒い息をつく兄。
その顔にくっつけんばかりに近づいてきたニコニコ顔が言う。
「おはようございます、お兄ちゃまv」
「お、おはよう・・・・・・って、カホ〜!」
「えへへ・・・・・・へ・・・・・・ふぁ・・・・・・ふぁ・・・・・・」
「?」
花穂の笑顔が崩れた、と見るや、小さな両手が彼女の口を覆う。
「・・・・・・っくしゅん!!」
「あ、・・・ほら、そんな格好でフザケているからだぞ。風邪ひいたって知らないからな。おー、寒ぅ」
「ホント寒いね、お兄ちゃま」
「おいおい、こらこら」
花穂がモゾモゾと蒲団の中に潜り込み始めたのである。
慌てて追い出そうとする兄であったが・・・・・・。
「だって、寒いんだもん・・・・・・うわぁ、お蒲団の中、あったかぁいv」
先ほどの兄を見習ってか、頭まですっぽり、蒲団に潜ってしまう花穂。
蒲団もベッドも、当然ながら一人用である。
いかに花穂の身体が小さいとは言え、二人で寝るのは窮屈だ。
「ちょ、ちょっと花穂ちゃん、ベッドから落ちちゃうぞ」
「大丈夫だよぉ。ほら」
蒲団の中から返事が聞こえたのと同時に、柔らかいものが押し付けられた感触を、兄は覚えた。
花穂が蒲団の中で、兄の身体に抱きついてきたのだ。
「こら、こいつ」
蒲団の上の方を兄がめくると、花穂は兄の胸に顔をうずめてしまう。
「えへへ・・・・・・お兄ちゃまの・・・・・・匂いだぁ・・・・・・」
「まったく、何しに来たんだよ、花穂ちゃんは」
「・・・・・・お兄ちゃまと・・・・・・遊びに・・・・・・」
「あれ?」
花穂の声が、やけに眠そうだ。
ちらっと見えた瞳も、トロンとしている。
「花穂ちゃん? 寝ちゃダメだよ? 起きて、花穂ちゃん」
「・・・・・・あと・・・・・・5分・・・・・・ううん・・・・・・10分だ・・・・・・け・・・・・・」
「増えてるってば。ちょっと、花穂ちゃん」
「・・・・・・」
返事の代わりに、スースーという寝息が漏れてくる。
抱きつかれたまま、兄は身動きが取れなくなってしまった。
「参ったなあ・・・・・・」
と一人ごちつつ、花穂の寝顔を眺める兄。
気持ち良さそうな、満たされきったような寝顔だ。
眺めている兄の顔から困惑の表情が消え、微笑が浮かんだ。
「・・・・・・まあ、参ることもないか。どうせ、お休みなんだし」
言い訳のように呟くと、起こしていた上半身を、静かに横たえる。
静かになった部屋で、スー、スー、と花穂の微かな寝息だけが聞こえる。
外の寒気も、蒲団の中までは入ってこない。
花穂の頭を軽く一撫でし、兄も目を閉じた。
二人とも、良い夢を−。
(おわり)
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■:HN:黒鮫建武隊
■:タイトル:「ねぼすけ兄妹」
■:コメント:お読み頂き、ありがとうございます。黒鮫建武隊です。
ヒネリもオチも無いSSで、失礼しました。
ぬくぬくしている兄妹を書きたいなあ、とそれしか考えていませんでした(^^ゞ
サンタ部門にもSSで参加しておりますので、ご覧頂けると幸いです。
それでは。
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